『週刊少年チャンピオン』往年の怪作が、2023年12月末にX(旧Twitter)で突如としてトレンド入りした。その作品とは、1995年から2000年まで連載された『鉄鍋のジャン』。電子版全13巻の55円均一セールが2024年1月11日まで開催中で、「全巻買っても715円」という破格ぶりに食いついた方が多かったようだ。複数のサービスで売上ランキング1位を記録し、作者の西条真二先生も読者にお礼の投稿を行っている。

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 だが、セール情報は作品が話題となる単なるきっかけにすぎなかった。何しろ、この漫画の主人公・秋山醤(ジャン)は性格がめちゃくちゃ悪い。普通の漫画なら敵サイドになるはずの悪人が「まさかの主人公」であり、連載当時からその魅力にやられた人が懐かしんだのはもちろん、初めて知る人が彼のヒールぶりに「ウソだろ!?」と恐れ慄いたのである。

 ここでは、そのジャンによる“カス作戦”の数々から、特に目立つものを3つピックアップしつつ、さらなる作品の魅力を紹介していこう。もちろん、本編の内容の一部に触れることになるので、予備知識なく驚きたい方は、先にセールを活用するなどして作品に触れることをおすすめする。

●“カス作戦”その1:マジックマッシュルームで審査員をトリップさせる

 『鉄鍋のジャン』は料理漫画である。そして、主人公ジャンは料理の腕は一流だが性格は傲慢で不遜、笑い方は「カカカカカカッー!」や「ケケケケケケケーッ!」であり、「料理は勝負だ!」をモットーに汚い手で勝ち上がることもいとわない、もはや極悪非道という形容が似合う少年だ。

 電子版第1巻、第1回中華料理人選手権大会の予選から、彼は料理にあるものを仕込んでいた。それは「マジックマッシュルーム」。単体では毒性のない2つのキノコをある分量で組み合わせることによって幻覚興奮成分を発生させ、気持ち良くなった審査員に最高得点を入れさせた上にトリップをさせるという作戦だ。

 そんなジャンは、ヒロインキリコによる拳を痛めるほどの渾身の右ストレートを食らい、「こんなの料理じゃない! 毒だ!」「幻覚キノコ料理なんてのを作るヤツこそ料理人失格よ!」などとド正論を吐かれる。

 この時点で大会を失格にならないのもすごいが、主人公のカスぶりに対し「周囲がカスだと明言」したり、「直球の暴力で制裁を下す」ことで読者の留飲を下げる展開なのも、この漫画のいいところだ。

●“カス作戦”その2:甘いスープで対戦相手の料理を台無しにする

 さらに電子版第2巻で、ジャンは大前考太という頑張り屋さんの好青年と戦うことになるのだが、彼は「お前の料理なんかだ~~れも食っちゃくれねぇよ!」と煽りまくる。一応確認しておくが、これは主人公セリフである。

 そしてここでのジャンの作戦とは、「何も食べたくなくなってしまうほど幸せな満足感が腹を満たす甘いスープ」を先に審査員に食べさせること。これにより、大前が作る「時間がたつとココナッツミルクの脂が冷めて分離してしまう料理」を台無しにすることだったのだ。

 宣言通りに審査員に対戦相手の料理をほぼ食べさせることすらさせなかったジャンは、負けた考太と仲間に対し、「お仲間ベッタリの甘ったれヤロー! 浜松へ帰ってママの萎びたオッパイしゃぶってろよ!」と追い打ちの煽りをする始末である。

 その後、ジャンは同大会でとある屈辱的な敗北を経験するものの、「おまえらも審査員もみんな血まみれにしてやる!! ケケケケケケッ!」と言い放ち再起を果たす。もう一度言うが、これは料理漫画の主人公セリフである。

●“カス作戦”その3:火力を独り占めしてスプリンクラー作動で他参加者をツブす

 電子版8巻、第2回大会の予選でジャンはガス管をブッ壊してガスを独り占めし、火柱と化した炎の中でチャーハンを炒める。

 それだけでも手前勝手だが、おかげで火災のためのスプリンクラーが作動。ジャンはそれを見越して自身のチャーハンラップで覆うものの、おかげで他参加者のチャーハン水浸しで台無しになってしまうのだった。

 さらに、ジャンが作ったのは「スープをかけながらも強力な火力で油をふっ飛ばしたことでサッパリしているチャーハン」。ジャンは「サラサラと腹に入る最高に食べ易いチャーハン!! あれを食べたあとでは油まみれの普通のチャーハンはのどを通らないだろうな!! キシシシシシッ!」(しつこいようだが主人公セリフである)と言い放つのだ。

 そして、この第2回大会の決勝におけるジャンの作戦……というか「21世紀を生き残るサバイバル料理」がすまじいので、こればかりはぜひ本編を読んでいただきたい。めちゃくちゃなようでいて意外とジャン自身が理(り)のあることを言っている気がする上に、劇中で審査員から殺意をぶつけられるジャンにはしっかり暴力での制裁があるのでご安心を(?)。

ライバルキャラにもカスが多い

 そんな悪人のジャン主人公とした作品なので、ヒロインキリコを筆頭にまともな倫理観を持ったキャラもいる一方で、周りの人間やライバルキャラにもカスが多い。

 第1巻から、ライバルですらないモブキャラ同然の望月と言う男は、「見習いの癖におもしろくねぇヤローだぜ」という理由で、使ったばかりの灼熱のナベを「洗え!」といきなりぶん投げたりする。こいつも十分に料理人失格である。

 第3巻で登場する蟇目檀(ひきめだん)は、「山ザルくん! 人間様に向かって指をさしちゃいけないよ!」と言いながらジャンの右手をいきなりバキバキに骨折させ、その後も腕を折るという極悪非道ぶりを見せつける。この2人がこの後にお互いに仕掛けたそれぞれの作戦もかなりのカスさだった。

 第4巻から真っ向から対決する伍行壊(ごぎょうかい)は、「手が勝手に口に料理を運ぼうとする」ほどの料理を作ることで、生ゴミをも勝手に口に運ばせ腹を破壊しようとさせる人でなしである。彼との5番勝負はこの作品の中でも屈指のぶっ飛んだ展開の応酬となっているので楽しみにしてほしい。

 第5巻から登場する湯水スグルというおぼっちゃまは、「ワガママでタカビーで勝ち負けにこだわって、自分を天才だと言いきるアホ」と評される程度で、相対的にかわいいほうだ。とはいえ、執事である刈衣花梨(かりいかりん)との関係はなかなか尊く、彼は彼でとても魅力的なライバルとなっていた。

 さらに、たびたび登場する「最高の舌を持つが性格は最低な料理評論家」である大谷日堂は、ジャンを大いに嫌っているが、その振る舞う料理の素晴らしさにときめいたりするため、こちらの関係性もなんだか愛おしくなってくる。キリコを差し置いて彼がメインヒロインと言ってもいいだろう。

●実はいいところもあるジャンかわいい

 ここまでジャンライバルキャラのカスぶりをあげてきたが、ジャンにはいいところもある。

 第1巻で大量の料理を作るにあたって大失敗をしてしまったジャンは、同年代の小此木という少年に慰められ、涙ながらに「お前…いいヤツなんだな…」と応える。その後2人がバイクツーリングに出かけ、キャンプニワトリ料理を作って食べて仲良くする様がとってもほほえましい。

 他にも、第2巻ではカゼを引いたキリコのために「負けた時にカゼを口実にしてほしくないだけ」という名目でカゼに効くデザートとドクダミ茶を振る舞ったこともあった。第10巻では爆発的に飛び散る油から「バカヤロウ近寄るな! 大ヤケドしたいか」と叫びつつレポーターを守ったこともあった。

 いずれも大したことではないかもしれないが、これまであげてきたヒールぶりとのギャップもあって、「16歳という年相応の男の子じゃないか……」とかわいらしく思える部分や、どれだけ悪人のようでも「人として守る一線」はしっかり持っていると伺わせるところもあるのだ。まあ、マジックマッシュルームを審査員に食わせている時点で一般的な人が守る一線からだいぶ外れている気もするけど。

 それはともかく、『鉄鍋のジャン』はぶっ飛んでいるようで、しっかりとしたロジックのある料理の勝負、味付けが濃ゆいキャラの数々や勢いのある作画、何より悪人の活躍こそを追いたくなる「ピカレスク・ロマン」の面白さがたっぷり詰まった怪作にして名作だ。『鉄鍋のジャン!R頂上作戦』や『鉄鍋のジャン!!2nd』や『鉄鍋のジャン!五行クンの楽しい香港生活』といった続編やスピンオフも含めて、ぜひ楽しんでいただきたい。

ヒナタカ)

極悪な表情を見せる主人公・ジャン(電子版第1巻より)


(出典 news.nicovideo.jp)


<このニュースへのネットの反応>

最終話の「アナザーエンド』はワロタ





ヤクを使わない*カレーみたいなのばっかり作ってたよなこれ。


無料公開ぐらいせんとはねんよな


基本は「自分の料理こそが最高」であって、最初のマジックマッシュルーム以降は相手の料理に問題があったんだよなあ……むしろキリコより心の料理していることも。甘いスープのはおいしさが持続しない・料理たっぷり食ってて腹いっぱいの相手に油ギトギトのものを食べさせようとした相手に問題があったわけだし。


主人公がカスと見せかけてそもそも登場人物にまともな人間があまり居ない漫画だったような


究極至高の親子対決と違い、ガチの料理研究家が監修してるだけあって料理への説明が破綻してないのが好き。でも食べ物が口に残ったまま喋るのきらい。


全巻で700円ちょいか。興味あったし買おうかな。


「美味い料理を作って喰わせたい」という思いだけを見れば、実はライバルであるキリコが唱える「心の料理」を一番体現しとるんやがのぅ・・・w


値段はいいけど見返す時間が取れないので悩む・・・ 熱気圏マネすることでチャーハン作っても鍋に米一粒も貼りつかないようになりました


ジャンがクソ丁寧に汗かきながら地道な手法で美味い料理を作って、試作も味見もせずに味を重ねて自滅した相手にド真っ直ぐな正論ぶつけた試合好き


この漫画、どっちかっていうと審査員のおっさんの方が面白かったなw 嫌われ役だったけど、自分の舌には嘘を吐けないってところが憎めないヤツだった。ただ、女性キャラがやたらと*だらけだなぁと思ってたら案の定*漫画も描いてて草だった覚えがw ……それと今思い出したけど、今の週刊誌には絶対掲載できないだろうなっていうネタがチラホラw


面白いけど、万人受けはしないってのが正直な感想


ポリコレ世代だと超絶料理人に習った親ガチャ成功かその逆の児童虐待で片付きそう


こないだ鉄鍋のジャンとコラボした居酒屋があったらしい ダチョウ肉のカルパッチョとかが食べれたとのこと(アレは振りかけてあった)


無菌〇の〇使って鹿肉にサシを入れたエピソードは記憶に残ってるw


鹿じゃなくてダチョウだった